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徳島地方裁判所 平成元年(ワ)343号 判決 1992年2月27日

徳島市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

松尾敬次

徳島市<以下省略>

被告

社団法人徳島県歯科医師会

右代表者理事

右訴訟代理人弁護士

田中達也

右同

田中浩三

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、原告の被告に対する入会申込手続を承認せよ。

二  被告は、原告に対し、金250万円及びうち金200万円に対する訴状送達の翌日(平成元年12月9日)より完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実(安易に認定できる事実を含む)

1  原告は、昭和15年、山梨県に生れ、昭和40年3月東京歯科大学を卒業し、同年5月歯科医師国家試験に合格し、昭和41年2月4日歯科医籍登録し(番号<省略>)歯科医師の免許を受け、歯科医師として就業する資格を得た。昭和47年10月11日、社団法人山梨県歯科医師会(以下山梨県歯会という)及び社団法人日本歯科医師会(以下日本歯会という)に入会し、歯科診療所を開設し、昭和62年9月30日山梨県歯会退会し、昭和63年3月31日右診療所を廃止し、同年4月1日より徳島県阿南市の医療法人親和会神原歯科(以下神原歯科という)に勤務し現在に至っている(乙4、原告及び弁論の全趣旨)。

2  被告は、徳島県を区域とし、被告で承認した支部及びその区域内に就業所(診療に従事しない者は住所)を有する歯科医師で構成する社団法人である。

3  日本歯会は、日本全国を区域とし、同会で承認した都道府県を区域とする歯科医師会(以下県歯会という)及び日本で歯科医師の免許を受けた都道府県歯科医師会所属の会員(以下会員という)で組織する社団法人である。

4  入会手続、被告に入会しようとする者は、「被告所定の入会申込書と日本歯会所定の入会申込書及び日本歯会の定める入会金を添えて所属支部会長を経て被告に提出するものとする、被告は、支部会長の意見をきき、理事会の議を経て承認する。」ことになっている。

5  原告の入会手続と被告の対応

① 原告は、山梨県歯会を退会したので、被告に入会すべく昭和63年4月22日入会に必要な書類を完備し、徳島県歯科医師会阿南市那賀郡支部会(以下阿南支部という)会長宛にこれを提出した。

② 昭和63年6月、同支部より原告の入会に関し面接審査したい旨申入れがあり、原告は、入会相談委員会なる会(以下委員会という)に出席し、いろいろと質問及び説明を受けた。同会から原告が勤務している神原歯科が分院を意図していると思われ、その計画に添って入会を申込んだのではないか、との質問を受けた。

③ 右面接後何の連絡もないままであったが、平成元年3月25日口頭で準会員にする旨の連絡があった。

二  争点

(本件の争点は、本訴が被告の自律的法秩序によって決すべき問題で司法審査の対象とならないのか。次に、右審査対象となる場合、被告の対応の違法性・さらに原告の損害についてである。以上の諸点につき、双方の主張は左記のとおりである。)

1  原告の主張及び被告の主張に対する反論

① 被告の対応の違法性

被告は、原告が、県外人であることを理由にして、原告の入会を拒否したり、原告の人物が判る迄入会させないという理不尽な対応をしたことは、合理的理由を見出すこともできず、憲法の保障する法の下の平等に反するものである。また、原告の勤務する神原歯科が分院を設置することを認めないことは、独占禁止法8条1項3号、4号に違反する疑いがある。また、被告の阿南支部で独自に同支部会入会規則を作り、「準会員制度」なるものを設け、直ちには被告会員に入会することを承認しないことにしており、原告も現在準会員として取扱われている。右「準会員制度」は、日本歯会及び被告の各定款に全く予定していないもので法的拘束力もなく(右規則6条は被告理事会の承認もなく無効な制度である)、不当な制度であり、且つ、正当な理由なく入会申込者の入会を大幅に遅延させる不合理な制度(前記入会書類提出後本訴提起するまでの約1年半余の間第三者を介し準会員にする旨の通知があったのみである)である。

右の次第であるから、被告が原告の入会申込を承認せず今日に至っているのは、断じて許されることではないので、請求一項の如く請求する。

② 原告の損害

原告は、被告に対する正式の入会申込に対し、前記の如き理不尽・不合理な理由で、その入会申込が承認されず、今日に至っているが、かかる被告の態度は、民法709条に該当する行為である。原告は、次の如き損害を蒙った。

(1) 慰謝料

被告の右対応により原告の対外的名誉・信用を失墜するばかりでなく、日本歯会及び被告の会員としての権利も行使できず、とりわけ日本歯会の情報も入手できず、学会に出席すること、会報や刊行物を受領することもできず、また、研修会の出席もできず、年金受領にも支障を来たしており、その精神的苦痛は金200万円を下ることはない。

(2) 弁護士費用

被告がすみやかに原告の入会申込を承認しないばかりに、本件訴訟提起に及ばざるを得なかったので、その責は被告にあるから弁護士に要する費用金50万円は被告が負担すべきである。

よって、請求2項の如く請求する。

③ (反論)、被告自身が自らの自律的法秩序によって決すべき問題であるから、司法審査による解決は差し控えるべきである旨の被告の主張は、ごく小人数の親睦団体等に対しては妥当するが、全国に7万余の歯科医師がおり、そのうち約5万5000名の歯科医師が日本歯会に入会し、徳島県下に530名余の歯科医師のうち殆んどの開業医が被告に入会しているマンモスの団体においては通用しない理論である。その理由は次のとおりである。(1)、昭和63年12月31日現在の日本における歯科医師の人数は、7万572人であり、うち開業歯科医師は、4万5369人であり、勤務医師は、2万3976人である(甲4)。平成2年3月31日現在における日本歯会に入会している者の人数は、5万4732人であり(甲5)、殆どの開業医師は同医師会に入会していることと推測される。また、徳島県下では歯科医師の数は、昭和63年12月31日現在で537人であり(甲4)、開業医師の殆んどが被告に加入していると思料される。この様にマンモス化した団体において、右入会手続が、憲法の保証する法の下の平等に反したり、独占禁止法に反する疑いがある場合、その救済の途を閉ざすことはまさしく国民の裁判を受ける権利を侵害することになる。(2)、日本歯会は、定款2条で(甲1)「本会は、日本全国を区域とし、本会で承認した県歯会及び会員をもって組織する。」旨規定されている如く、歯科医師の免許を有し、県歯会に所属していなければ日本歯会に入会できぬことになっており、県歯会に入会することを前提要件としていることから、強制加入団体と同視できるものである。(3)、各県歯会の入会手続についてその基準が区々であっては不平等を来すので、多分大同小異の基準であると思料されるところ、被告の如く準会員の制度又は予備会員の制度を設けている会は他に少くないと思われるし、また、被告の会の一部の支部のみがかかる特別の基準を設け自由なる入会を拒んでいるもので、制度の存在自体が許されるものではない。被告の主張によると、予備会員の制度は、会の趣旨の理解を深め、会員としての自覚を促すとか、新入会員に会員としての責務を認識してもらい、会員相互の融和、協調性を持っていただくための準備期間として設けたものである旨であるが、その為にどんなことが行われているのか。何も行われていないのが実情である。(4)、原告は、昭和47年10月に山梨歯会に入会し、日本歯会に入会していたが、昭和62年9月30日山梨歯会を退会しているので日本歯会の会員の資格を失ったままになっており、早期に被告に入会する必要性に迫られている。原告は、約15年間山梨歯会会員として何ら問題なく経過してきたのに被告に入会できないため、日本歯会の医業の情報が入手できなかったり、学会、研修会の出席もできず、会報や刊行物が配布されず、年金についても中途解約になるおそれもある。かかる実態、実情を直視したときに、被告はあくまでも被告自身自からの自律的法秩序によって決すべき事柄と断言できるであろうか。もし、断言できるとすれば、これは日本歯会並びに被告の社会的使命を自から放棄するに等しいと言わざるを得ない。

2  原告の主張に対する認否及び被告の主張

① 原告の主張①中、被告の阿南支部に準会員制度があることは認め、その余及び同主張②はすべて争う。

② 原告の被告及び阿南支部への入会手続については、被告自身の自律的法規範によって規律されるべき事柄であり、司法審査による解決は差し控えられるべきである。即ち、憲法21条は結社(団体)の自由を保障しているから、団体の結成、不結成、団体への加入、不加入、団体の成員の継続、脱退については、公権力の干渉を受けず、団体自体の自律的法秩序に委ねられねばならない。このような消極的結社の自由は、全体主義的結社観に立たない場合の当然の帰結であるとされている。従って、被告のような歯科医師会を設立、結成するか否か、設立するとしてその構成員を如何なる範囲にするか、況んや被告への具体的入会手続をどのように規定するか、といった事柄は、右結社の自由の内実をなすものとして、被告自身が自らの自律的法秩序によって決すべき問題である。被告は、弁護士会のように法律上設立・加入が強制された団体ではなく、あくまで任意の団体である。歯科医師として開業し、勤務することは被告に加入せずとも何ら妨げられることはなく、現に歯科医師会に加入せず仕事をしている歯科医師は相当数存在する。歯科医師会を解散したとしても、歯科医師としての仕事は遂行でき法律上何ら支障はないのである。即ち、被告に入会せずとも自由に歯科医師の仕事はできるし、被告以外の団体・個人が主催する学会、研修会は数え切れない程あり、業界紙、雑誌等の刊行物も溢れていて意欲さえあればいくらでも勉強や研究の機会は充分にある。現実に全国でも1万5840人の歯科医師は歯科医師会に入会していない。また、平成2年9月1日現在の徳島県下の歯科医師数は537人であるところ、被告会員数は395人であり、徳島県下の歯科医師のうち26.44パーセント、おおよそ4人に1人は被告に加入していない。このような団体では、憲法の原則通り可及的に団体の自由が保障されるべきである。しかも、本件で問題となっているのは、被告への加入手続上の問題である。団体には組織体としての規律があり、団体構成員間の融和をはかったり、団体への責務を果たしてもらわねばならない以上、入会に際して予備会員の制度を設けておりその間に会の趣旨の理解を深め会員としての自覚を促すことは十分合理的である。また少なくとも、そのような手続については、団体の自由の最低限の保障内容として団体自体が自律的に決定できてしかるべきであり、司法が介入するべきではない。

③ 原告の被告及び阿南支部への入会を承認するかどうかの手続については、被告が定めた定款及び支部規約等にのっとり他の入会者と同様一定の課程を踏んで行われており、何ら違法ではない。被告には、10個の支部が設置され(甲2・定款64条)、本件で問題となっている阿南支部もそのうちの一つである。各支部には支部会が設置され(定款68条)、各支部会には支部規約又は支部定款が設けられる(定款69条)。阿南支部にも、昭和61年7月1日より施行された支部規約として、阿南支部会会則(乙1号証)が定められている。右支部会会則によれば、入会を希望する者は入会規則(甲3号証)により所定の審査を受けなければならないとされ(6条)、その入会規則によれば、入会の順序(課程)として、(1)入会申込、(2)入会審査(委員会)、(3)準会員(現在は予備会員に名称変更)、(4)入会審査(総会の議決)、(5)入会許可、(6)入会手続の各課程を経たうえ入会することとされている(3条)。原告に対しても、他の新入会員と同様に右手続きを踏み、入会申込から入会相談委員会の面接を経て、現在予備会員(旧称準会員)となっている状況である。

このような予備会員の制度は、被告歯科医師会や支部会が医療の高楊、歯科医学の学究、会員の福祉親睦、会の運営の円滑化等を目的として結成された一つの組織体であり、会員となることはその組織体の一員としての責務を伴う以上、新入会員に、会員としての責務を認識してもらい、会員相互の融和、協調性を持っていただくための準備期間として設けられたものである。原告に対し、入会相談委員会の席上で右入会課程とその趣旨について説明したところ、原告は、一方的に喧嘩腰の態度をとり直ちに入会を承認するよう主張し、落着いた話合いができない状態であった。即ち、原告は、入会申込時や入会相談委員会の席上で被告阿南支部の予備会員制度に強く抗議し、私は面接を受ける義務はない、即時入会を認めよ、と主張し、入会相談委員会の委員からの各質問に対し全くけんか腰でとても落ち着いた話ができる状態ではなく、B歯科医師から山梨県では相当業績をあげていた旨聞いていた会員の1人が、山梨県では盛大になさっていたのに何故徳島の郡部に転居されるのか聞いたところ、いきなり「盛大とはどういうことか」と怒鳴り散らし、また原告が歯科医師会に入ってもメリットがそれ程ないと言うので、それでは何故歯科医師会に入りたいのか聞いたところ、「そんなことまで話す必要はない。私個人の問題だ。」と殴りかからんばかりの剣幕になった。このような原告のけんか腰の態度では、小人数で和気あいあいとやっている被告阿南支部の円滑な会の運営に支障を来たし、会の目的の一つでもある会員相互間の親睦もはかれないだろうと思われた。更に、原告が訴外B歯科医師の義弟所有地上に神原歯科の分院に近い形で開業しようとしたこと(会内では過当競争の時代で本院に加えての分院開設は互いに遠慮しようとの意識がある。)、その際、同時期に近隣に開業しようとした村田歯科に対して歯科衛生士をめぐっての妨害行動があったこと、被告に対する訴訟提起による強引な入会承認要求等一連の事情が積み重なり、原告に対する会員内の反発を招く結果となった。現在も被告阿南支部会員の全員が原告の入会に反対している状況である。被告は、原告に対し、阿南支部の入会手続とその趣旨説明をしただけで、県外の医師を入会させない等と言明したことは一切ない。

第三当裁判所の判断(理由)

一  本訴は、司法審査の対象となるか、それとも被告の自律的法秩序によって決すべきであって、右の対象とはならないのか、まず検討する。

1  証拠(甲1ないし6、7の1ないし4、9の1、11、乙1、証人C、原告、被告代表者)及び弁論の全趣旨によると、次の事実(争いのない事実を含む)を認定することができる。

① 日本歯会は、日本全国を区域とし、県歯会及び会員をもって組織し(定款2条)、歯科医師社会を代表する総合団体であり(同3条)、被告(県歯会-被告は、徳島県を区域とし、阿南支部を含む10支部及び右区域内の歯科医師でもって組織する-県定款2条、64条等)は、日本歯会の下部組織の一つとして同会を構成していること、そして、日本歯会に入会を希望する個人会員(歯科医師)は、被告の下部組織である所属支部における所定の審査を経て同支部の会員となり、同支部会長を経て被告の会員となり(なお、前記第二、一、4入会手続をここに引用する。右手続に関する検討は後記のとおりである)、さらに、被告を経由して日本歯会に入会手続をとることとなっていること(定款7条、県定款6、7条、支部規則3条等)、以上のことから、歯科医師が日本歯会へ入会するためには、まず支部-本件では阿南支部-の会員になり、さらに、県歯会-本件では被告-の会員になることが前提条件である仕組であること、このことは、初めて歯科医師になった者が右入会手続(新規加入)を経由するのは勿論のことであるが、他の県歯会-本件では原告が山梨県歯会-を退会し、被告に右入会手続をとる場合も、同じ取り扱いであること、右日本歯会、被告らは、歯科医師の任意加入団体ではあるが、唯一の団体であり、会員は、同会・被告らが行う後記各種の事業及び共済年金制度を利用ないし享受することができる利益があること、そして、被告等から入会を拒否されたり、或いは入会を大巾に遷延させられたりしている者に対する不服申立制度や救済措置の規定は置かれていないこと、しかしながら、歯科医師は、右団体に強いて加入しなくとも歯科医師を開業し或いは診療に従事することは支障がないこと、これに対し、弁護士は、所属弁護士会への入会を経て日弁蓮に登録されなければ開業できず、右の不服申立制度がある(弁護士法)こと

② ところで、昭和63年12月31日現在において日本国内で資格を有する歯科医師の総数は7万0572人(なお、昭和61年は6万6797人で、3775人の増加である)であり、うち勤務歯科医師は2万3976人・開業歯科医師は4万5369人であり、平成2年3月31日現在において日本歯会に入会している者は5万4732人(右の増加状況から推認する-昭和63年12月31日から1年3か月後の時点であるので、増加分の半数1887人は増加している-と、平成2年3月31日現在における日本国内の総数は約7万2459人であるから、約24.46パーセントに当る約1万7727人が日本歯会に加入していないこととなる。なお、右増加の推認を捨象すると、約22.44パーセントに当る1万5840人が日本歯会に加入していないこととなる。)であり、徳島県下の歯科医師総数は、昭和63年12月31日現在537人であり、うち被告会員数は395人(26.44パーセントに当る142人が被告に加入していないこととなり、右日本歯会に加入していないパーセントとほぼ一致すること)であり、平成3年時点では、総数は590数人であり、うち被告会員数は402人であり、190数人は非会員であるが、その大部分は大学関係者であって、開業歯科医師はごく一部であること

③ 日本歯会、被告らは、前記のとおり、歯科医師の任意加入団体であるが、歯科医師社会を代表する総合団体として、医道の高楊、歯科医学医術の進歩発達と公衆衛生の普及向上を図り、もって社会と会員の福祉を増進することを目的とし、その目的達成のため11項目にのぼる事業を行なう旨定めていること(なお、歯科医師法1条によれば、歯科医師は、歯科医療及び保険指導を掌ることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとするとされている)、公正取引委員会は、岐阜県歯会に対し、同会で定められていた入会前に一定期間をおく予備会員制の廃棄を命じていること

2  以上の事実を総合勘案すると、本訴は司法審査の対象になると解するのが相当である。けだし、日本歯会・被告は、歯科医師の任意加入団体であり、右団体に加入しなくとも歯科医師を開業することができないわけではない点で、弁護士・弁護士会とは趣きを異にするものではあるが、歯科医師社会を代表する総合の唯一の団体であり、前記の崇高な目的をもち、それを達成するために11項目にものぼる事業を行い、共済年金制度を設置して、会員にこれらの利益を享受させていること、これは会員の法律上の地位・権利とみることができること、徳島県下では、殆んどの開業歯科医師が被告・日本歯会に加入していること、しかも、被告(ないし阿南支部)に入会が認められなければ、日本歯会には入会できないこと、その趣意において、被告は、一種の独占的な団体であるといわなければならないところ、入会を拒否されたり、或いは大巾に遷延させられたりした者の不服申立ないし救済措置が存しないことは、入会を希望する歯科医師の前記法律上の地位ないし権利の取得を不当に奪う結果となるからである。換言すると、予備会員制度(この点の詳細は後記のとおり)を設置して、入会を拒否し、或いは大巾に遷延させることは、前記のとおり公取委が岐阜県歯会に対しその廃棄を命じているところであり、むしろ、容易に入会を認め、会員の自由競争により、会員が従前にもまして切磋琢磨することこそが、前記目的をより一層達せられる所以であると考えられるし、それによりもし不祥事等を引き起こした会員については、除名処分により対処すればよく(なお、右除名処分は、代議員会及び総会の議決が必要であるが、出席者の多数決で決することができる-県定款17条、39条、47条-ことになっていて、通例の場合より、議決が容易であることが窺われること)、会員の過当競争(ないし会員相互の摩擦)を避けるためとの美名のもとに、前記予備会員制度を設置することは、本末転倒するものであると評さざるを得ないからである。

二  次に、被告の対応の違法性について検討する。

1  証拠(前記証拠のほか、甲8、9の2、10、乙2ないし4)及び弁論の全趣旨によると、次の事実(争いのない事実を含む)を認定(判断を含む)することができる。

① 歯科医師(原告)が、被告に入会するためには、阿南支部に入会することが前提条件であるところ、同支部へ入会するには、所定の審査を受けなければならないこととなっているが、準会員制度(予備会員制度)を除いて至極当然な審査事項であるといわなければならない。ところで、右支部の定める準会員制度(予備会員制度)は、(前記のとおり相当でないがこの点は暫くおく)、被告理事会の承認を得て(県定款69条)いないから当然に無効であるが、支部において、事実上にせよ右支部規則に基づき準会員制度を設けて運用することは不当ないし違法であるから、被告は、然るべき是正措置をとる義務があるといわなければならない。原告は、昭和63年4月22日、右支部に対して入会手続をとり、同年6月、同支部の面接審査を2回受け、翌年4月、予備会員になった(同支部から原告に対する直接の通知がなされていない点は不適切である)ものであり、それまでの間、被告は、同支部に対し、さしたる措置をとらなかった結果、右のとおり、不当ないし違法な結果を招来することとなったといわざるを得ないのである。

② 然しながら、同支部が、原告に対し2回の面接審査を行った際、いずれの場合においても、原告は、当初からけんか腰状態であり、売り言葉に買い言葉でやり合ったというのであり(例えば、山梨県歯会からなぜ右支部に入会するのか尋ねるのは、至極当然な質問であると考える)、それにもかかわらず、同支部は、前記判定をし、平成2年には原告を同支部の正会員に認める予定であったこと、日本歯会は原告の共済年金の件につき保留した状態にしていること

2  右事実によると、もし、右②が、会員の行為であれば、県定款17条1項4号の除名事由に該当すると評価されてもやむなきことであると判定するのが相当であるところ、右は入会審査手続ではあるが、除名事由に匹敵するような事情があるときは、前記のとおり相当長期間入会を遅らせても、原告の入会をいたずらに遷延したことにならず、従って、被告には、何らの違法ないし不当に該当する事由は存しないといわなければならない。前記準会員制度が事実上運用された結果であったとしても、被告が、右違法ないし不当に該当しない点につき消長を来たすものではない。そうすると、被告は、同支部に対し、特別の措置をとることもできないばかりではなく、その必要もなく、被告の原告に対する対応につき、何らかの違法ないし不当な点は全く見出し難いといわなければならない。原告の主張は理由がない。

三  以上認定判断したとおり、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、失当であるといわなければならない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本愼太郎)

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